バリアフリーとは:由来・規則からイベント会場設営まで
バリアフリー推進は世界中の課題であり、日本でも交通機関や建築物等でのバリアフリー整備が充分とは言えないものの着実にすすめられています。本記事では、あらためて「バリアフリー」の意味を再確認するとともに、バリアフリー化の例や、イベント会場設営におけるバリアフリー化のポイントを紹介していきます。
1. バリアフリーとは
バリアフリーの意味
バリアフリーの意味をご存知ですか?本記事をお読みの方の多くは「知っている」と回答されるのではないでしょうか。
内閣府が全国の15〜79歳男女を対象に行った調査によると、バリアフリーという言葉の認知度は全体で9割以上だそうです。
【参考】内閣府『令和3年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書』より調査概要(P3)あらためて辞書で「バリアフリー」の意味を確認してみました。
障害者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こうという考え方。道や床の段差をなくしたり、階段のかわりにゆるやかな坂道を作ったり、電卓や電話のボタンなどに触ればわかる印をつけたりするのがその例。
内閣府の解説はつぎのとおりです。
バリアフリーとは、世の中に存在する物理的、社会的、制度的、心理的な障壁(バリア)、情報面での障壁などを取り払い、障害者・高齢者・妊婦等が不便なく暮らすことができるようにするという考え方です。
以前は辞書にあるように物理的な障害を取り除く意味で使われていましたが、近年では内閣府の解説のとおり物理的のほかに社会的、制度的、心理的、情報面での障壁を取り払うという、より広い意味で使われるようになっています。
バリアフリーの由来
バリアフリーという考え方が生まれたのは1960年代の欧米とされています。第二次世界大戦(1939~1945年)以降、大勢の負傷した兵士が帰還したことが影響して、アメリカでは1961 年に「建築物および設備を身体障害者にも近づきやすく、使用できうるものにするためのアメリカ基準仕様書」が作成され、1968年にはバリアフリーに関する最初の法律と言われる「建築障壁法」が制定されました。その後、1974年に国連障害者生活環境専門家会議で「バリアフリーデザイン」という報告書が作成されたことが、バリアフリーという言葉が広く知られるようになったきっかけと言われています。
【参考】
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行「ノーマライゼーション 障害者の福祉」1996年4月号(第16巻 通巻177号) 37頁
認知症未来共創ハブ「研究編①共生のためのデザイン70年の道程」2019.09.19
障害者が利用できる施設であることを明確に示すマークです。エレベーターやトイレ、駐車場など、さまざまなところで使われているので、街中で目にすることも多いですよね。車椅子を利用される方だけでなく、すべての障害者を対象としています。
国際シンボルマークはほかにも、「盲人のための国際シンボルマーク」や「聴覚障害者のための国際シンボルマーク」(現在は世界ろう連盟としては使用を取り止めています)があります。
また、「耳マーク」や「ほじょ犬マーク」、「オストメイトマーク」、「ハート・プラスマーク」「ヘルプマーク」などの障害者に関係するマークがあります。
3. バリアフリーに関する規則
日本の規則
日本には、2020年に改正され2020年6月19日に一部施行、2021年4月に全面施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」があります。
バリアフリー法は、もともと1994年に制定された「高齢者、身体障害者が円滑に利用できる特定建築物に関する法律(ハートビル法)」と、2000年に制定された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」をひとつにして2006年に制定されたものです。その後、交通機関や建築物におけるエレベーターやホームドアの設置などハード基準での整備が進められましたが、ソフト基準が不十分であること等、多くの課題も浮き彫りになってきました。また、2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えたこともあり、更なるバリアフリー化の推進が必要ということで、2018年に改正されることになりました。2020年の改正では、バリアフリーのさらなる推進のため、ソフト対策が強化され、「心のバリアフリー」の普及・推進がより求められるようになりました。
ハード基準とソフト基準の関係について、国土交通省はつぎのように説明しています。
○ハード基準は、障害当事者が公共交通機関を円滑に利用するための必要最低限の義務として、以下のとおり規定。
- バリアフリー設備を設置すること(例:○○においては、○○を備え付けなければならない)
- バリアフリーとして機能させるために必要最低限の構造の諸元(例:○○の幅は、○cmでなければならない)
○ソフト基準は、ハード基準のバリアフリー設備の機能が十分に発揮されるよう、設備の目的に合わせて以下のとおり規定。
- ①職員等がバリアフリー設備を用いて、役務の提供を行うこと(例:乗降用のスロープ板等)
- ②バリアフリー設備それ自体を用いて、運行情報の提供や照度の確保などの役務の提供を行うこと(例:運行情報提供設備、照明設備等))
- ③バリアフリー設備を用いた役務の提供が行われるよう、体制を確保すること
バリアフリー設備が設置されるだけでなく、きちんと活用されることが重要ですね。また、交通機関の優先席や車椅子使用者用駐車場、バリアフリートイレなどの適正利用も、より推進される必要があります。実際にバリアフリー法には、国民の責務としてつぎの記載がされています。
国民は、高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性について理解を深めるとともに、これらの者が公共交通機関を利用して移動するために必要となる支援、これらの者の高齢者障害者等用施設等の円滑な利用を確保する上で必要となる適正な配慮その他のこれらの者の円滑な移動及び施設の利用を確保するために必要な協力をするよう努めなければならない。
世界の規則
アメリカ
アメリカでは、1990年に障害を持つアメリカ人法(ADA法/Americans with Disabilities Act)が制定されました。ADA法は、障害者への差別を禁止するとともに、障害者が他者と同じようにアメリカでの生活を営むことができる機会を保証するものです。
イギリス
イギリスは2010年平等法(Equality Act 2010)で、直接差別、間接差別、障害に起因する差別、調整義務を果たさないことによる差別、ハラスメント、報復的取扱い、違法行為の指示等を禁止しています。
ドイツ
ドイツでは障害者平等法が2002年に制定、2016年に改正されました。施設の新築や改築・増築の際にバリアフリー化を行うことが義務とされており、さらにバリアフリー化された施設のみ賃貸することができるとされています。
【参考】
内閣府:平成25年度障害者権利条約の国内モニタリングに関する国際調査報告書
国立国会図書館調査及び立法考査局:【ドイツ】障害者平等法の改正
鉄道駅
エレベーター、ホームドア、スロープ、音声案内、点字案内、筆談具、点字ブロック、幅の広い自動改札機、車椅子の高さに合わせた自動販売機・自動券売機、優先席、バリアフリートイレなど
写真:駅のホームドア
バス
ノンステップバス、スロープ、筆談具、車椅子スペース、ベビーカースペース、優先席、色覚特性や白内障のある方に配慮した室内色彩など
タクシー(車種による)
スロープ、広いスペース、車椅子やベビーカー固定装置、手すりなど
飛行機・空港
スロープ、機内用車椅子、エレベーター、音声案内、点字案内、筆談具、優先席、バリアフリートイレなど
船
スロープ、優先席、バリアフリートイレ、点字ブロックなど
スペース不足や人員不足、費用の負担が大きいなどの理由からバリアフリー化がすすまない場所も多くあります。たとえばホームドアの設置が進まない理由のひとつに多額の費用がかかることが挙げられます。また、ハード面でバリアフリーの設備があっても、適切に運用できる職員がいない場合もあります。乗車拒否される事例も少なくなく、まだまだ課題は残されています。
劇場・競技場
だれもが安心して芸術・文化の鑑賞やスポーツ観戦ができるよう、劇場や競技場でもバリアフリー整備が必要です。2015年7月には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催をふまえて、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」に「劇場、競技場等の客席・観覧席を有する施設に関する追補版」が出されました。
設備
劇場・競技場でのバリアフリー化の例としてはスロープ、エレベーター、バリアフリートイレ、車椅子席、障害者用駐車場、車いすやベビーカーの貸出などがあります。
情報
ホームページでバリアフリー情報を公開している劇場や競技場もあり、どのような設備があるのか事前に知ることができます。
【例】新国立劇場ホームページ
ただ、開演前や終演後といったトイレが混み合う時間帯には、本当にバリアフリートイレを必要としている方が利用できないことがあったり、車椅子席と前の座席との段差が高くない会場では観客が立ち上がると車椅子席からはステージが見えなくなってしまったりなどの問題があります。また、車椅子席ははじめから会場内での位置が決められているため、公平ではないという点も考えなければなりません。
写真:障害者用駐車場
イベント・仮設会場
短期間のイベントは、劇場や競技場ではなく公園や広場などで行われる場合も多くあります。その場合のバリアフリー化は、劇場や競技場に備え付けられるバリアフリー設備と同等のものを仮設で対応する必要があります。
たとえば常設トイレが無い又は少ない場合は仮設トイレが設置されますが、一部をバリアフリー対応の仮設トイレにします。
地面が舗装されていない土や砂利の場合、車いすやベビーカーの通行がしづらいため、養生用敷板を敷いて地面を平らにします。
通路に段差がある場合は取り外し可能なスロープを使用したり、安全な迂回路を案内したりします。
工事現場
一般道路や歩道など、歩行者の通行がある場所で工事を行う場合、なるべくスムーズに通行できるよう、下記のような工夫が必要です。
- 車椅子でも通行しやすい幅員の確保
- スロープを使用して段差をなくし勾配を小さくする
- カラーコーンや点字ブロック、照明などによる誘導
また、必要に応じて工事関係者による声掛けやサポートを行います。
【参考】横浜市「工事中の歩行者に対するバリアフリー推進ガイドライン」写真:点字ブロック
5. バリアフリー化されていないケースの問題点
逆に、バリアフリー化されていないとどのような問題があるのでしょうか?いくつか例をあげてみます。
< 例 >
段差や隙間がある… |
転倒や転落のおそれがある。車椅子やベビーカーが揺れるもしくは自力で進めない。 |
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高さが合わない… |
自動販売機や自動券売機で車椅子にのったまま購入できない。 |
通路の広さが足りない… |
車椅子やベビーカーが通れない(もしくは折りたたまなくてはならない)。 |
音声案内がない… |
視覚に障害があると情報が得にくい。 |
点字ブロックがない… |
進む方向や危険な場所がわからず事故のおそれがある。 |
ホームドアがない… |
転落のおそれがある。 |
エレベーターがない… |
車椅子やベビーカー利用者、歩行が困難な方が移動できない。 |
それ以外にも、バリアフリー化されていないと危険や不便がたくさんあります。
6. SDGsとバリアフリー
2030年までに持続可能な社会の実現を目指した世界共通の17の目標を定めたSDGs(持続可能な開発目標)のうちの目標のひとつに、「人や国の不平等をなくそう」(目標10)があります。これを機に、バリアフリー化へのより積極的な取り組みが期待されています。
達成目標の10-2と10-3はつぎのように設定されています。
10-2
2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。
10-3
差別的な法律、政策やならわしをなくし、適切な法律や政策、行動をすすめることなどによって、人びとが平等な機会(チャンス)をもてるようにし、人びとが得る結果(たとえば所得など)についての格差を減らす。
7. イベントの会場設営におけるバリアフリー化
全国各地で音楽イベントやグルメイベント、ご当地イベントなど、屋外・屋内問わずさまざまなイベントが企画・運営されています。ここでは、バリアフリーな会場設営を実現するための具体的なポイントをお伝えします。
会場
- バリアフリートイレや障害者用駐車場はあるか確認する
- 授乳室、託児室、救護室、車いす席などのスペースはあるか確認する
- 通路に段差がないか、ある場合はスロープの用意ができるか確認する
- 通路の幅に余裕はあるか確認する
- 会場までのアクセスに危険な場所はないか、スムーズに移動できるか確認する
- 案内表示は見やすくわかりやすいか確認する
- 会場までの公共交通機関の状況を把握し、必要に応じてシャトルバスを運行する
広報
- 広報期間は充分に確保して広く知ってもらう
- テレビ、ラジオ、新聞、インターネット、チラシなど様々な媒体を活用する
- 文字の大きさや色は見やすくわかりやすく作成する
- 点字や外国語の案内を作成する
- 各種サービス(車いす席、筆談具、託児など)を案内する
設営
- わかりやすいレイアウトや動線にする
- 案内表示は見やすくわかりやすく作成する
- 展示物は子どもや車いすの方でも見ることができる高さに配置する
- 通路や点字ブロック、案内表示の妨げになる場所に物を置かない
- 授乳室、託児室、救護室、車いす席などを設置する
- 車いすの通行にも余裕のある通路幅を確保する
- 段差がある場合はスロープ等で解消する
運営
- 会場内外の設備や各種サービスの対応についてスタッフ全員に周知する
- 非常時の避難経路や誘導方法、医療体制を整えておく
- スタッフであることが一目でわかるように腕章やジャケット等を身につける
- 介助や誘導のためのスタッフを配置する
【参考】
三重県 UDイベントマニュアル 平成30年10月版
福島県 ユニバーサルデザインの視点に立ったイベント企画・運営の手引き 平成17年3月
広島県 ユニバーサルデザインイベントマニュアル 平成17年3月
千葉県 会議・会合・イベント等を開催するときの配慮【障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン】
山口県健康福祉部厚政課 ユニバーサルデザインに配慮したイベント開催の主な留意点
8. “強化型ケーブルプロテクターどこでもケーブル”バリアフリーへの取り組み
強化型ケーブルプロテクターどこでもケーブルは、イベントや工事現場で使用するケーブルを簡単に保護できます。ケーブルを保護しないと、歩行者や車両などの通行時、ケーブルをふみつけたりひっかけたりする恐れがあります。
どこでもケーブルは、地面に置き、中央の溝にケーブルを通して蓋を閉めるだけで施工が完了するため、とても簡単にケーブルの保護ができます。溝の両サイドは車両がスムーズに乗り越えられるようスロープ仕様になっています。このスロープの勾配はタイプにより異なるものの、どれも20度以上になります。しかし、車椅子利用者が介助者なしに自力で登れる勾配は5度くらいまでとされています。そこで、強化型ケーブルプロテクターどこでもケーブルは、バリアフリー対応製品をご用意しています。
スリム収納タイプ・プロ(バリアフリー)PS-3PRO-BF
スリム収納タイプ・プロPS-3PROにバリアフリー・スロープ(外付け)PX-1 を装着します。それぞれ個別梱包してお届けいたします。車イス、ベビーカー、カートなどに対応します。 |
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ミディアム収納タイプ・プロ(バリアフリー)PM-3PRO-BF
ミディアム収納タイプ・プロPM-3PROにバリアフリー・スロープ(外付け)PX-1 を装着します。それぞれ個別梱包してお届けいたします。車イス、ベビーカー、カートなどに対応します。 |
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ワイド収納タイプ・プロ(バリアフリー)PW-3PRO-BF
ワイド収納タイプ・プロPW-3PROにバリアフリー・スロープ(外付け)PX-1 を装着します。それぞれ個別梱包してお届けいたします。車イス、ベビーカー、カートなどに対応します。 |
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コネクトⅡバリアフリー・スロープPW-5CONS-BF
たくさんのケーブルをまとめて保護できるコネクトⅡのスロープには、コネクトⅡスロープとコネクトⅡバリアフリー・スロープの2種類があります。コネクトⅡスロープの勾配は10度ほどですが、コネクトⅡバリアフリー・スロープの勾配は5度です。 コネクトⅡはスロープ部分が分離しているため、必要数のコネクトⅡセンターの両側に、コネクトⅡスロープまたはコネクトⅡバリアフリー・スロープを連結します。 →「コネクトⅡ」製品ページ |
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バリアフリー・スリープ(外付け)PX-1
すでにお持ちのどこでもケーブルに取り付けて傾斜を緩くするスロープです。ワイド収納シリーズ、スリム収納シリーズ、ミディアム収納シリーズに、適合しています。重ねるだけで簡単に装着できます。 ※バリアフリー・スロープ(外付け)PX-1 を装着した状態では車両対応しておりません。 →「バリアフリー・スロープ(外付け)」製品ページ |
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